
前回ウメハラ講演録⑥からの続き
その形で期待に応えない。
復讐のチャンス。
復讐って誰にだ?世間にですね。
結構印象的だった出来事ってのが若い時にあって、二十歳ぐらいの時かな。
東京の広尾、おしゃれですよね。
二十歳ぐらいの若造が行くところじゃないと思うんですけど、背伸びして、特別な日だった気がしますね。
美味しい和食の店があるって、人から紹介してもらって。
行ったんですよ。わくわくしながら。
今でこそあんまり身なり気を使わないけど、当時は自分なりにちょっと小奇麗にして行ったつもりだったんですよ。
広尾だしなーって。
で、そのご飯屋さん地下だったんですけど、間違って2階に入っちゃったんですよ。
そしたら、たぶん、そこは結婚式の2次会だったのかな。
きれいな恰好した人たちがいっぱいいて。
※写真はイメージ
で、その式場の受付にいるお姉さんに、ものすごくいぶかしげな顔をされたんです。
「?!なんですか!???」って。
こっちは初めて行く広尾だし、こんな田舎者が世間知らずの奴が行っちゃっていいのかなってビクビクしてるから、その一発目でこっちが間違ったのが悪いとはいえ
すごい怪訝な表情で「なんですか?!」って顔されてすごいショックだったんですよ。
ああ、おれにはここにいる人たちと対等に接する権利がないらしい。どうやら。
世の中ってのはそういう風になってるらしい。でもそれはたぶんおれが悪いんだ。
おれがこの人たちの物差しでいう価値あるものを持ってれば。
それが何だかはわからないですよ。人脈なのか、地位なのか。
なんだかわからないけど、それがあればおれはあんなひどい顔されずに済んだんだなと。
あの受付のお姉さんは僕の人生を知らないはずだけど、なんか
チクショーっ!て、思ったんですよね。
それからもことあるごとに惨めな思いってのはしたけど、プロゲーマーになって
メディアに出て、これさえありゃあの広尾の連中と対等に戦えるんじゃないかと思ってたものが
どんどんどんどん手に入ってくる。
あれ、このまま行くとおれあいつらに復讐できるんじゃねえの?見返してやれるんじゃねえの?って
いう気持ちに、たぶんなったんですよね。
なったことにも気づいてないんだけど。
今思うとなってたんでしょう。
そうでなきゃ、そんなこと思ってなければ、どんなに周りからチヤホヤされようが、肩書が増えようが、自分の取り組みや姿勢が変わるわけがない。
だけど心のどこかで、今、あの時受付にいたお姉さんが俺のこと見たらどう思うんだろうなぁっていう
悪い気持ちがあったんでしょうね。
おそらく、出会ったらあんな瞳はしてこないだろうな。
自分の中で復讐が完了してた気になっちゃってたんでしょうね。
そうすると今度は、またあんな顔されたくないから、この地位を保たなきゃって話になっちゃう。
そのためには、周りの顔色うかがって、ある程度周りの言う通りに動いて、さっきの話で言えば強いキャラを使って、無難にやってかなきゃいけない。
…うちの親の教えで…、うちの親の教育ってシンプルなんですよ。
歯を磨け、でしょ、保証人になるな、ってのも言われましたね
あとは人のこと騙してまで成功しようと思うな、その中に「人に迷惑かけるな」ってのもありました。
人に迷惑さえかけなけりゃ、別に俺たちはお前が何してようがいいよ、って。
あと靴をそろえろってのもあったっけ。
だから、人に迷惑をかけないってのは意識してましたね。
人に迷惑をかけないってどういうことなんだろう。
まぁ、あんまり突き詰めて考えちゃうとね、生きてるだけで多かれ少なかれ人に迷惑はかけちゃうんで。
常識の範囲内で迷惑をかけないってことなんだろうなって勝手に理解して意識してたけど。
じゃあ話を戻して、周囲の期待に応えるってのは、いや「周囲の期待に応えない」ってのは、迷惑かけることになるんですかね?
その女の子は母親の期待に応えないことを選んだけど、それは迷惑なんですかね。
俺は迷惑じゃ、あ、「俺は」って言っちゃった、すみません(笑)
僕はね、迷惑をかけるってことだと思わないんですよ。
周囲の期待ってたぶん皆さんもありますよね。
嫁の期待、親の期待、部下の期待。上司の期待。友達の期待。
でも、そんなもん、知ったこっちゃないじゃないですか。
勝手に期待すんなよって。
だいたい「期待」って具体的じゃないんですよ。
どうなれば満足するかって全然明確じゃない。
ただ何となくぼんやり相手に期待してる。で、相手を追い詰める。
で、期待に応えて期待に応えて期待に応えて。
自分は「あー人生つまんねえな」って思ってるんですよ。
何のために生きてるんですか。
それが行きすぎちゃうと最悪の場合、自分で自分の人生終わらせちゃう、なんてこともあるわけですよね。
うちの親は数少ない教育方針でしたけど、その中に「人の期待に応えなさい」ってのはなかったですから。
だから、どうやら人の期待には応えなくていいらしい。
まぁそういうと、何にもしない奴って思われちゃうかもしんないけど(笑)
僕の考えは、「あなたたちの思う形では期待に応えませんよ」。
これが僕の生き方ですからね。
”あなたたちの想像の範囲で僕は期待に応えませんよ”
”僕は僕のやり方で期待に応えますよ”
っていうのが、今の心境なんですよね。
だから今日、皆さんにどうしても言いたかったことって言うのは、「勝ち続ける意志力」とか「1日ひとつだけ強く」とか、まぁそれも、現実世界は競争激しいですから、無視していいとは言いませんが、何のために勝つのか何のために成長するのかってことを明確にしておかないと
つい数日前の僕みたいに「なーんで生きてるんだっけな」ってことになっちゃう。
だから、できる範囲で、自分の気持ちに正直に「これって自分が正しいと思い込んでたけど、正しいと思い込まされてるだけなんじゃないかな」ってことがひとつやふたつあると思いますから、それを「いや、俺は俺の好きにやってやるぜ」って思ってもらえると、まぁ今日講演した甲斐があるかなと思います。
こんなところですかね。よろしいでしょうか。
(会場、割れんばかりの拍手) 質疑応答編に続く