前回ウメハラ講演録③からの続きです。
勝てない理由は「飽き」
プロゲーマーになるまで編が少し長かったですね。
すみません、ここからはまぁ「仕事術」というとおこがましいですけど
著書にも書いてきたような勝負に勝つために考えていること、どうやって
プロとして活動してきたかってことを簡単にお話したいと思います。
念願のプロ、やっと夢がかなったわけです。
そしたらね、最初の1年目は1日18時間ぐらいやるんですよ。ゲームを。
少ない日でも14時間ぐらい。もうずーっと画面とにらめっこですよね。
御飯食べる時と寝る時トイレ行く時以外はずっとゲームやるんですよ。
意味あるかどうかなんてそんなこと関係ない。
とにかく俺は好きなことを仕事にさせてもらったんだ。
これまで、みんなやりがいのある仕事してたり、人から褒められる仕事してて
うらやましいなーって。おれにもそんな仕事があればなぁって。
若い時からずーっと思ってたから、ようやく自分がやりがいを感じれること、
特技が生かせる仕事についたんだと思うともう居ても経ってもいられなくて
1日18時間。
それが実ったのか、その年も世界大会優勝するんですよ。
ああ、やればできるじゃないか。俺の努力はムダじゃなかったなーって。
その時は思ったんですよ。
しかし徐々に「なんかおかしいな」って体の不調を感じるようになって。
はじめは目に異常が出たんですね。
まぶたと目の下のあたりがずーっとプルプル痙攣してるんですよ。1日中。
画面を見る見ない関係なく起きてる間ずっとプルプル痙攣している。
それでも念願のプロになれたってことで、かまいなく1日18時間やり続けたんですよ。
しかし次は顔にニキビがぶわーーっと出来るようになった。
これまでニキビなんかで苦労したことはなかったから、さすがにこれはいい加減やばいなって気づきました。
体に異変が起きている。
それでもやっぱり、何のために生きてきたんだろう、なんて考えてた頃に比べれば
顔に吹き出物が出来ようが、目に痙攣が起きようがこんな試練へっちゃらだ!って、練習を続けました。
しかし、自分ではそう思っていても徐々に肉体と精神には疲労が溜まっていって、次第に勝てなくなっていくんですよね。
練習時間は誰よりもやってるんだけど、勝率はどんどん落ちていく。
格闘ゲームってのはやらないこともいらっしゃると思いますからわからないかもしれませんが、メンタルがすごく重要なゲームなんですよ。
どんなに技術や知識があっても、精神が、というか脳が疲れてたら勝てない。
そんなことは、若い時に真剣にやってた時にも経験してたことだからわかっているはずだったんですけど、やっぱりいても経ってもいられなくてがむしゃらにやっちゃった。
そうするとどうなったかっていうと、アケコンってわかりますか。見たことぐらいあるって人もいるかもしれませんね。
格闘ゲームってのはキャラを動かすスティックとボタンがあるわけですね。その台。
野球選手で言うボールとグローブのようなものです。僕が1日18時間触ってるもの。
これに触ると吐き気がするようになったんですよ。画面を見ると「うわってみたくねえな」って。
プロゲーマーってアケコン触ると吐き気するものなのか?でもそれじゃ仕事にならないだろう。
でも「すみません、頑張りすぎてダメになったのでプロ辞めます」ってわけにもいかないから
何とかしてこの状況を打破しないといけない。
しかし、ちょっと考えて思ったんです。1日18時間、そりゃ誰のためにやってるんだ。
自己満足のためにやってるなって。気付いたんです。
1日18時間やれってのが仕事じゃないわけですよ。
スポンサーにとっていい選手であればいいわけだから。
いいプレイを見せて観客を興奮させたり喜ばせたり、大会に勝つことが仕事なのであって。
1日5分の練習でもどんどん強くなっていくのであれば問題ないわけですよ。
そこんところをはき違えていたんですよね。
そうか、18時間やっても強くなるどころか、ゲームを見たくもなくなっちゃうから
では、自分にとって、一番プレイの質が向上していく、ゲームがうまくなっていく、成長していく時間の使い方や練習方法ってなんなんだろうって考えて、そこから著書にも出した「勝ち続ける意志力」だったり「1日ひとつだけ強くなっていく」みたいな考えが出来上がっていくわけですよ。
その年、2010年はストレスで体を壊してしまいましたが、それ以降はいい成績を残し続けてきたと言っていいと思いますね。
取り組み方を変えてからは調子はいいと思います。
で、インタビュアーの人に「普通1年や2年は強くいられると思うけど、どうやったらそんな風に長いこと強くいられるんですか?」って質問された時に決まって答えるのが
「とにかく、自分を飽きさせない」のがコツだと。
なぜ飽きさせないことが大事か。
当然、勝負の世界ですから、練習や努力を継続していかないと勝ち続けることは不可能ですね。
練習も努力もしないで勝てるっていう天才も世の中にはいるかもしれないけど、少なくとも
僕は格闘ゲームの世界では見たことがないです。
てことは、継続して努力をする必要があると。
では継続して努力するとはどういうことか。1日18時間寝る間も惜しんで、気持ち悪いけど体に無理をさせて練習することが努力なのか。
それは違いますよね。それが違うということは1年目で自分が証明しちゃってるから。
意味のある努力。前に進むための努力を継続させないといけない。
それになぜ「飽き」が関係してくるのか。
ゲームって楽しいもんじゃないの?好きなこと仕事にしてるから「飽き」なんてこないだろうって
言われるかもしれないけど、いや、そんな甘いもんじゃなく、やっぱり何だって同じことやってりゃ飽きるんですよ。
僕なんて11歳の時からやってますから、もう格闘ゲームってものに対する刺激は十分なんですよ。
今さら格闘ゲームで新鮮な思いをする、なんてことはない。
しかしその中でも自分の中に新鮮な気持ちってものがないと、人間前向きにならないんですよね。
初心者のプレイヤーとか見てて「あぁ、今ゲームにハマってるな、楽しいんだろうな、上達してるな」って思ってしばらくすると、ゲーセンで見なくなって「どうしたの?」って聞くと「飽きた」って言うんですよ。
でも、これ違うんですよ。
ゲームに飽きたんじゃない。成長しないことに飽きたんですよ。
変わらない。昨日と今日、やってること一緒。だからゲームがつまんないってことにしてるんですけど、
問題なのは成長してない自分の方なんですよ。
成長が実感できてれば、ゲームだろうが何だろうが「飽きる」ってことはない。
仕事の都合や家庭の事情でやれなくなることはあっても「飽きました」ってことにはならないと思います。
人間が前向きに努力を続けるためには「成長」があればいいんですよ。
成長さえ実感することが出来れば、人間てのは飽きない。
飽きないから前向きに努力する。当然、上達して成果が出る。
僕はこれの繰り返しなんですね。格闘ゲームに関しては。
とは言っても、成長ってそのゲームをやり始めのころと、1年後、2年後、5年後、10年後って、
成長スピード同じかって言ったら、そんなことはなくて
やればやっただけ成長スピードって遅くなっていくんですよ。
そりゃそうですよね。やりつくしてるわけだから。今さらどこ成長させていいかもわかんない。
それは打破するために僕がやったことがメモを取るってことだったんですよ。
今日はこんなことがあったな、今日はこんな発見があったなってことをメモする。
あれ、おれ昨日ゲームセンターに行ったけど、どんな意味があったかなぁって思った時に
あぁ、昨日はこんな成長があったって、じゃあ今日は昨日のおれより強いんだなって思えるから
よし、じゃあ今日もゲームセンター行こうって気持ちになれると。
ただ、これだけじゃあ厳しい。今日は何の発見もなかった。
今日はどうひいき目に見ても得られるものがなかった、って日もありますよね。
まぁ実際には僕にはそんな日は割となかったんですが、まぁあり得ますよね。
それを防ぐために、今度は「意識的に変化する」ということを加えました。(つづく)