2013年に東京大学で行われた将棋の羽生善治(2016年3月26日現在で4冠、講演当時は3冠)さんと東京大学の学生との質疑応答を格闘ゲーム「鉄拳」に置き換えて考えてみました。http://todai.tv/contents-list/events/habuyoshiharu/lecture
鉄拳プレイヤーの皆さんのヒントになるのか、ならないのか?(笑)
文字に起こしていますが、動画もぜひご覧になってみてください。
これ好評だったらこの講義の本体「50の格言から学ぶ将棋」も格ゲーに置き換えたものをいつか用意してみたいと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=7-Rsl9oVgBc
Q1、実力差がプレイヤーの違いにあらわれる頻度は?
そうですね、まぁ急戦調とか持久戦調とかによって若干違うとは思いますけど、例えば結論が出ないとか、答えが見えないとか、はっきりしないというようなターニングポイントは、おそらく1局の中で2回か3回とかだと思います。
Q2,鉄拳が楽しいのはどんな時か
そうですね、キャラを一手ずつ動かして行く時に漠然と動かすってわけじゃなくて、こんな構想で行こうかなとか、こんな形になるんじゃないかなということを考えながらやってるわけですね
そういうのをやってる時にひとつひとつの手が線みたいな感じになって結びつく時があるんです
まぁ相手もあることなので、なかなかその通りにはならない時もありますけど、そうなった時が一番嬉しい気持ちになります
Q3,攻めと守りのどちらが楽か
楽なのは受ける方です。攻めるっていうのはですね、なんと言えばいいんでしょう、組み合わせの問題ってことがすごく多いんです
こういう形になりそうだ、と思っても順番を間違えると攻めが成立しないとかうまくいかないケースが多いので、局面を考える大変さということを考えると受けてる方が楽ですね
ただ、鉄拳は長丁場なので、対戦が始まって最後までずーっと受けということになると精神的にはきついです(笑)
Q4,鉄拳をする際に精神的に大切なこととは?
勝つためにいろんな構想を練るわけですが、鉄拳って勝負の半分はやっぱり相手の手番だから、他力によるところが大きいんですよね。その他力の要素を受け入れることが大切なことなんじゃないかなと思ってます
Q5,他の仕事は鉄拳の対戦の準備を阻害するか
なかなか難しい質問ですね(苦笑)。まぁ逆に言いますと、四六時中鉄拳のことばかり考えているとそれが対戦にいい影響を及ぼすかと言うと、必ずしもそんなことはないんですね。
集中して考える時は考え、リラックスする時はリラックスし、他の仕事をやっていくことも(対戦への)ひとつのアプローチになります。
もうひとつ言えることはですね、他のことがどんなに忙しくても対戦する時は邪魔されるということはないわけです。
そんな気楽さでやってますね(笑)
Q6,鉄拳が嫌いになったことはあるか?
対局が続くと肉体的にきついと思ったことはありますが、嫌いになったことはないですね
Q7,心身のコンディションで心がけていることは?
うーん、私は心身のコンディションは天気のようなものだと思っているんですね。
もうその日になってみなければわからない。
後は雨の日、曇りの日にどういう対応をしていくかという工夫をするかを考えることだけですね。
私はそんな風に割り切ってます
Q8,新たな挑戦と対局に勝利することの兼ね合いは?
それは調子で決まりますね。調子がいい時は今までのやり方でうまく行ってるわけですから、そのやり方を続ければいいし、調子が悪い時は何かやらないといけないわけですから、なんかこれまでと違うことをすると。1試合の中でもその組み合わせでやりくりしてますね。まぁそうは言っても迷いますけどね。
Q9,一手にどのくらい長く考えたいか
いや、ほとんど変わらないですね。例えば1時間を3時間にすると内容はすごく伸びると思うんです。でも10時間を30時間にしてもほとんど変わらないですね。30時間鉄拳ってやったことあるんですが、あれを10時間にしても大して内容は変わらなかったと思います。
どういうことかと言うと、わからない場面はもう時間かけてもわからないわけですよ。
わかる場面はそりゃ時間かければわかるでしょうけど、わからない場面は1時間かけようが5時間かけようがわからないわけです。
Q10,一手に時間をかける時の思考は?
1時間考えれば大体、全部の選択肢に対するルートが思い浮かびますね。それ以上考える時は踏ん切りがつかなくて迷っている時です。しかし基本的には1時間半や2時間も考えて思考を深めることは難しいので、全体としては少ないですね。
Q11,鉄拳に「美しい形」はあるのか?
うむ、美しいというのは抽象的な表現ではありますが、そうですね今日はせっかくここに筐体がありますから、ちょっと触ってみましょうか。
(次々に盤面を変える羽生氏)「これ、いい形」「これ、悪い形」「これいい形」…
なかなか素人にはわからないと思うけど、将棋をやってる人なら誰でもそれがいい形か悪い形かはひと目でわかるものなんです。
この認識能力が無駄な思考を省略したり、考えられる選択肢を狭めたりしてくれるんです。
形のいい悪いをパッと見で認識できるというのはひとつの上達じゃないですかね。
ただし、もうひとつだけ言いますと「高飛車」という言葉がありますね。横柄な態度という意味の。
そんな言葉になるだけあって、昔は飛車が高い位置にいるというのはすごく悪い形だったんです。
しかしここ15年ぐらい「高飛車」は大流行しています。プロの間でも。
むしろ高飛車を使わない方が変わった人だなというくらい。
つまり形の「いい」「悪い」というのは永遠ではないということです。
このこともひとつ、我々は考えておかねばなりません。
Q12,棋譜から時代性はわかるのか
そうですね。今では廃れてしまった格言に「五筋の位は天王山」というものがありますが、江戸時代から昭和の初期くらいまでは盤面の中央を取ることが強いとされ、研究が進んでいましたので、棋譜を見ればああその時代のものだというのがわかりますし、それ以降でも「ああこれは平成の初め頃だな」とか「ああこれは1年前か」という風にわかります。
やっぱり時代の影響というのは避けられないというか、まぁ非常に大きなものでしょうね。
Q13、その時代の生活スタイルや社会状況に影響されるか
まぁゼロではないって感じですね。今は研究が進んでいて変化のスピードが速いですね。
前だったらもっとゆっくり進んでただろうに、とは思います
Q14,終わりのない戦いに恐怖はあるか?
あまり先のことは考えないようにしています(笑)
感想
やっぱり羽生は天才すぎて、そうストレートに役に立つ言葉を拾うのは難しいというのが、いつ彼の著書を読んでも思うことです(笑)
要するに当たり前すぎる。当たり前のことをやって勝てるのはなぜか。それは彼が天才だからということでしかない。
ただ、今回の講義で言うと「形」に対する認識の話は良かったですね。
格ゲーはe-sportsですから、以前「モラリスト」なんて言葉もはやりましたけど理詰めだけでは勝てない。
なぜなら理屈を考える時間はやはり試合中はそうそうない、その時「形」に対する嗅覚があればロジック考える時間を省略して最善手を打てるかもしれません。
形とか雰囲気とかの直観を大事に鉄拳やってみようかなという気になりました。
ここまで見ていただいた方も何か得たものがあれば幸いです。
実際には谷川浩二さんとかの講演の方がより参考になるかもしれませんね。