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【緊急寄稿】リオ五輪ベストバウトは福原愛‐ハンイン(独)

http://www.huffingtonpost.jp/2016/08/15/fukuhara-did-not-shake-hands_n_11536174.html

あまり自分の中で盛り上がってなかった今年の五輪ですが、唯一卓球女子だけはドラマを感じながら見ました。

銅メダルを取った3位決定戦では伊藤という逸材が国内に鮮烈な記憶を残しました。近いうちに石川をも超える地位まで上り詰めることでしょう

しかし、自分としてはその試合以上に、決勝進出を賭けた日独団体戦がまさに死闘と呼ぶにふさわしい内容だったと思います(ドイツと言っても相手は帰化した中国人ばかりで、ほぼ日中戦だった)。

以下、展開を少し説明、その前に団体戦のルールを確認。

①3本先取制で2試合目は必ずダブルス。それ以外はシングル。
②「セット」は格ゲーで言うラウンドと捉えていただきたい。ラウンドは3本先取、つまり3先の3本先取制と思ってもらえるといい

序盤から日本は伊藤のシングル、伊藤ー福原のダブルスで敗れるなど黒星が先行する苦しい展開。しかしエース石川がシングル戦で2度も日本に星をもたらし2-2とする。

ここで日本の卓球界を長らく支えてきた福原が登場。ドイツの5番手ハンインとの一騎打ち、この試合に勝った方が決勝へ。

序盤は福原の激攻めが奏功し、あっという間にセットを先取するが、「カットマン」の異名を持つハンの対応力が2セット目からじりじりと本領を発揮し始める。スマッシュの連打で圧倒して勝ち切りたい福原の猛攻に腰を落ち着けて台から下がり距離を取って冷静に対処するハン。どんなに振り切っても壁に打っているが如くボールが帰ってくるため、最後は福原がスマッシュをアウトにしてしまうミスを出し、ポイントを取られるという展開になっていく。

ここで解説もそのことを指摘する。

「攻めてばかりでは距離を測られて対処されるだけですよ。緩急をつけないと」

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その指摘があった頃、福原も重々そのことはわかっていたのか、以降のセットではスマッシュから幅の小さなレシーブに変えて対処。

この戦術の変更があたり、再びセットを取り返し、フルカウント。勝負はこの1セットを取った方が勝ちというところまでもつれ込む。(この激闘ぶりに石川は思わずサイドからの応援に声が大きくなりすぎて退場。)

最後のセット、再びハンの待ち戦法にじれた福原がミス、ポイントを先行するが、ここでもう一度福原がさらに待ちに対しての「待ち」を選択し、9-7とリードを奪い返す。決勝まであと2ポイント。

ここで私はあることを思い出したのです。

2D格ゲーをやっていて「待ち」を崩す方法は、もし実力が同等ぐらいならこちらも「待つ」。鉄拳なら待ちには2択ですが、2Dでは待ちの相手には待ちを選択してジリジリした展開にすると勝利できることが多い。待つ相手は攻める相手を料理するのが得意だから待ちを選択するのであって、同じように待たれる展開は想定に入ってない。というよりも、自分が「待ち」は強いという戦術評価をしているから待ちを選択しているのであって、それは裏を返すと自分が待ちをされると苦しい、とまで読みとれるわけです。(※ここは鉄拳でやけに下段を打つ人には下段当たる。あれと同じですね。下段見える人は、あまり下段打たないでしょう。)

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ところがですよ、これも多分経験ある人多いと思うけど、相手が待ちだからこっちも待った方がいいという結論が出たとしても、それが付け焼刃で自分の得意なスタイルじゃなかったら、勝っていてもしっくりこなくて、嘘のような気持ちがしてくるもの。もうそろそろ付け焼刃が通用しなくなってくるから、そろそろ自分の得意なスタイルに戻して勝ち切りたい。こういう心理が生まれてきたことはないですか。

僕はめちゃくちゃたくさんあります。あーなるほど、この人にはこうすれば勝てるや、でもこんな単純でインスタントな方法いつか対応される、そろそろ元に戻した方が裏もかけていいだろう。と。

ところが相手からすると、早く自分の苦手なモードが終わってくれないかなとお願いしているだけの心理なんですね。こっちが思ってるほど高等な精神状態にいなかった、なんてことはよくあります。

結果として、相手の苦しい状況を辞めてあげただけ。

あーやっぱり、あの戦法を取り続けていれば良かったか、なんて野試合では思うもの。そして実際に次の試合からはもう負けなくなるんですが、大会のような一発勝負ではこの負けが永遠の記録になり、再戦の機会がないから、ここの見切りがものすごい大事です。基本的に相手に効いている戦法は破られるまで続けた方がいいことが多い。

話を卓球に戻します。ハンと同じく待ちの戦術をとりいれた福原は怒濤の5連続ポイントで劣勢から一気に9-7と逆転する。

誰もが日本の決勝進出に光明を見出した瞬間でした。

しかしここで福原が、また急に攻めに転じる。

僕は何だかこの展開が予想できました。福原の得意なスタイルは明らかに攻め。攻めて勝ちたい。待ちは騙し騙しだったのです。

ポーカーフェイスのハンは実はかなり余裕がなかった。だから再び攻めに転じた福原は「辛いことを辞めてくれたモード」でしかなく、また序盤と同じような展開でハンは点を稼ぎ始め、最後はラッキーボールまで飛び出し、日本は敗退した。

ただ、試合が終わった後の福原のコメントを聞くと、上記のような心理だったことは間違いないけど、相手のハンにもうひとつ、工夫があった。愛ちゃんのコメントをよく見てみましょう。

「相手はわざと、球を浮かせてきた。打ち急いで、より良いコースに打とうと思った」。

攻めが得意な福原が攻め気になるようにわざとスマッシュの絶好球を返していたんですね。ほら、お前は攻めが得意だろ、思い出せよと。

これは完全に精神的にハンが上回っていたと言った方がいいかもしれません。

最後のエッジボールの判定ごとき、問題ではないと思う。

たとえ判定が覆っていても敗色は濃かったのではないかとさえ思います。

そこが勝負の本質とは思えない。

それよりも相手のモードが嫌だなと思った時に、相手の心をどう乱すか、判断ミスを誘うかという参考として、非常に大きな資料となる試合だったなと思っています。ギリギリの淵の駆け引きをしていた、福原とハンのベストバウトでした。

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