「ウメハラ考」~プロフェッショナル仕事の流儀を見て~

2018年3月19日、NHK番組「プロフェッショナル仕事の流儀」でプロゲーマー・ウメハラが特集された。

https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2018085962SC000/index.html

実はこれは長年、格闘ゲームをプレイする者の悲願でもあった。
ウメハラがプロになったのは2010年を過ぎた頃だが、これだけでも当時は夢のある出来事で、それから1年ほど経って
アマチュアの手で「仕事の流儀」を模した動画が作られ、ニコニコ動画などで人気を博していたのだ。

いつか、こんな日がくる。すなわち、虐げられてきた俺たちの趣味「ゲーム」がメインカルチャーとして認められる日が来ると。

【プロフェッショナル】ウメハラ 梅原大吾【オープニング】

予想に反した内容

そして、実際にその日は来た。しかし、内容はあの時作られたアマチュアの「流儀」とは大きく違うものだった。
アマが作った「流儀」はウメハラが辿ってきた栄光と日々の隠れた努力をメインに構成されていた。
当然、この分野でかけられている熱量を知ってもらうためにそういう展開になるだろうと私も予測していた。

しかし実際の19日の放送では、ウメハラが冒頭、ときどに負け、彼女に振られ、年齢から来る肉体への不安を示唆し、親も登場させてウメハラがプロゲーマーになった当時の不安を語っていた。

人となりに触れるとは思っていたが、ここまでeスポーツ自体の説明がないというのは正直言って意外だった。
私の知り合いなどは「ウメハラの親のくだり要ったかな?あそこいらないと思った」とまで言うほどだ。

しかし私は全く別の感想を持った。

ああ、NHKもまた「プロ」なんだ。これはプロの仕事だと。

報道する意義、意味

メディアの世界でニュースを取り扱う際、それが「初報」であるか「二報目以降」であるかでは、大きな区別をつける。
それはそうだろう。もう報道された内容をまた、「初報」のように報道してしまうと、もはやそれはフェイクニュースだ。
ちょっと考えてみればわかるが、「森友学園の文書に改ざんがありました」と今新しく出たかのように報道すると「またか?」と思ってしまうだろう。
2報目はもっと掘り下げて内情や背景などを特集するのである。

すなわち、eスポーツが盛り上がってきていてプロゲーマーがいて、先駆者がウメハラであるということはもはや既報なのである。

eスポーツはユーチューバーと並び、もはや十分に世の中に認知される存在になったのだ。

では、それを掘り下げる内容をどうするか。ウメハラのことは既に大手紙も通信社も取り上げ、NHKでも民報でも特番を作った。

急成長「eスポーツ」最前線

そこでは、あの時アマが作った「流儀」のような栄光と努力が描かれているのだ。

さらにウメハラらゲーマーも動画配信を行い、私たち一般視聴者はある程度、彼らの日常を知ることができる。
先日の獣道とその後の振り返りなどは、大変見ごたえがあるもので、あれだけで下手な「流儀」では太刀打ちできない。

しかし唯一それらの番組や配信では、我々が知り得ない内容があったのだ。

それがウメハラ自身が人として持っているウィークポイントだったり不安である。

我々は画面を通していると、ウメハラの活躍や栄光をまさに信者のように超然的な存在として見ているものの、
「視力は大丈夫なのか」「結婚はしないのか」「親はどんな目で見ているのか」と、自分の立場に置き換えた時、ふとそんな等身大の彼の「事情」が
気になったりする。ウメハラは本物のエンターテイナーだからか、自らそうした情報を出すことはなく、結局のところ我々はそうした興味はすぐ頭から消す。

だが、NHKがあえて様々な配信や番組がある中でさらに特番を出すなら、番組を出す意味を求めなければいけないと考えたのだろう。

今まで触れられて来なかった、ウメハラのプライベートに焦点を当てたのだと考える。

差別化のためだけに焦点を当てたのか?いや、「意味」はやはりあるのだ。

これは前半のユーチューバー、ヒカキンや後半のデータサイエンティストの話も見ていないと気付けない視点かもしれない。

「個人」を超えた苦悩

3者に共通しているのは「開拓者としての不安と苦悩」である。

いずれも先行者利益に目が行きやすい業界ではあるが、彼らは先行者利益で安寧としていない。ここが私が本稿で言いたいキモでもあるのだが、こういう場合にいまだに
ときどではなくウメハラが取り上げられること、先日獣道でときどが漏らした「ゲーム以外でも勝ちたかった」の背景もここにあると私は見ている。

彼らがどうにかしたいと思っているのは個人の名誉ではなく、いずれも業界だ。業界を背負っている。

ウメハラは番組中で見ている人を楽しませるには、と何度も口にした。
ヒカキンも同様で視聴者を想像して絶対に不快な気持ちを沸き起こさないように口調から気を使っている旨を話した。
データサイエンティストも同様だ。AIに仕事を奪われそうな状況を「自分が」どうするかではなく、この仕事が生き残るために、会社組織の中でどういう役割になっていくかということを口にしていた。

仮にこれが個人の栄光の追求にとどまるなら「勝つには」でいいし、「挑発的なことをやって炎上して稼ぐ」で良いし、「需要のある新しいことを始めた」でいいのである。

しかし彼らは業界を背負っているという宿命感を持っているため、個人的な利益の追求で満足しない。だから不安だし苦悩する。

NHKの編集でそのように見せているだけ?いや、ウメハラはときどの対談配信などでも視聴者がどういう層なのかをしきりと気にしていた。
「今、見てくれているのはゲーマー?それとも一般の人?」とアンケートを取り、ゲーマーが大半を占める状況にかなり落胆していのだ。

底辺vs東大!ウメハラ×ときど特別放談

革命家

これはウメハラがゲームがメインカルチャーになることを悲願におき、活動してきたことを裏付けるエピソードだ

また、先日行われた彼主宰の討論番組でも、沈黙を破って語り始めた思いは、プロ化、eスポーツの普及化を超えて、この日本というステージがeスポーツのメッカであってほしい、eスポーツ普及したって、それが海外へ選手を派遣することでよし、としていちゃあつまらない。日本がeスポーツの最先端になる目論見を話し合いたいんだ、と半ば憤怒も交えて力説した。

ウメハラにとってのゴールとはこれほどに大局に立った視野にあるものなので、しばし個人を犠牲にしている部分もまたあるのである。

それこそがNHKが抜きたかった、言わば「革命者の悲哀」なのだ。

ヒカキン編でもネット上に「見ているうちになぜか可哀想な気持ちになった」というコメントを見つけたが、彼もまたユーチューバーという職業に対して様々な実験を行いながらその変遷を見極めていて、私生活を犠牲にしていることが番組内でそこはかとなくわかる構成になっていた。
彼がユーチューバー一本を仕事にした日本国内の元祖だからこその不安があるのだ。

「今日のネタは作り終えたが、また明日は明日でネタを作らないといけない」

これは想像以上に苦しい生活だろうと思う。
十分に儲けているだろうが、お金ができたからあとは植物のように消費するだけの人生でいいとは思っていない証拠だ。

どうなっていくかわからない業界だから、グループで動画を作ったり、色んなやり方を模索している、と話していた。
彼の取り組みがまた、ユーチューバーの新しい文化を作り、ネット文化を牽引していくのだろうと思う。

唯一性の魅力

前述の話に戻るが、こうした苦悩はおそらく2番や3番にはわかりにくいに違いない。

既に用意されている道に乗ると、あまりその道がどうなるかということに不安がいかなかったりするものだ。
だから個人の成功に集中することができる。

一方、ウメハラやヒカキンから見えている視点は常に道なき道であり、常に悩み、不安から解放されることがない。

そしてその悩み苦しむ姿こそが、彼らの魅力、カリスマで在れる所以に違いない。

すなわち革命家が常に持つ、そのカリスマである。業界の中では彼らしか持ち得ない唯一性があると言ってもよく、だから先日のような放送内容になった。

ウメハラの彼女の話や親の話などは素直に取材OKが本人から出ただろうか。

しかし、取材というものは常に一般社会では触ることのできないギリギリかそれを踏み越えたものを取ってくるのが基本であり、それを世に出してこそ情報で金を取るプロの仕事である。

私にはウメハラ、ヒカキン、データサイエンティスト、そしてNHKと4者のプロの仕事が交錯した内容に見えました。

<余談>今回の「流儀」の語り手は貫地谷しほりさんと橋本さとしさん。きっと橋本さんがナレーターをやると思っていました。知ってる人には有名ですが、この人は餓狼伝説やKOFでおなじみのテリーボガードやキムカッファンの声優さんです。「パワーウェイブ」とか「半月斬!」って言ってるあの方。役者もされていてよくドラマにも出ていますが、今回のナレーターには彼以上の適役はいなかったと思います。
いや、もう1人、烈風けーんの生瀬さんでも出来たかな…

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このブログの著者の1人で鉄拳ではまめちーの弟子。鉄拳歴は1年。昔見たリリ使いの綺麗なお姉さんに憧れてリリ始めました。スト3サードが本業です。月火水の更新が担当ですが、他の曜日に書くこともあります。 2D→3Dの挑戦は非常に厳しいですが、その成長の過程も誰かの参考になったら、とも思ったり。ブログの内容についてはお頼りやコメントも是非ください。